ロストオデッセイ サウンド


・植松伸夫(サウンドクリエイター。スマイルプリーズ代表)



(要約)

 最初にお話を聞いたのが、僕がスクウェア・エニックスをちょうど辞めた頃かな?
坂口さんに「ブルードラゴン」の企画と一緒に見せてもらって「お願いできないかな?」って。
分厚いシナリオを2つも貰って帰ったのを覚えてますよ。「自由にやってください。植松さんのサウンドが欲しい
んですから」って口説かれたら、そりゃあ作曲家冥利に尽きるね。その分プレッシャーはあったけど。

 「ロストオデッセイ」と「ブルードラゴン」に関しては、制作側からここに曲が欲しいという指定があって。
オーダー方法は、タイトルによってまちまちなんですよ。今回みたいに"こんな雰囲気の曲が欲しい"という
メモ書きがあるケースもあれば、「ファイナルファンタジー」の後期なんかは完全にオマカセ状態。
どっちがやりやすい、やりにくいってことはないです。

 「ロストオデッセイ」って「ブルードラゴン」と切り離して考えられないところがあって。一緒にシナリオ貰った
ってこともありますし、メインテーマとかを書いたのが大体同時期だったんで。ある意味対極じゃないですか?
鳥山先生のポップな世界観の少年達の冒険と、井上先生の大人っぽいシリアスなストーリー。対極にあった
んで、振り分けは端からできてましたね

 日本とハワイでのやり取りなので、ミーティングとかを頻繁に持つわけじゃなくメールがほとんどなんですが、
たまにポッと書かれてるんですよ。「ゲーム中に女の人の声が欲しいなあ」っていうのがあって、だったらメイン
テーマに女性のソロパートを入れようって。束縛されるような仕事の仕方ではないけど、ひょっとしたら彼の
手の平の上で踊らされているのかもしれないけど(笑)

 友人のツテでスクウェアに出入りするようになったあと、坂口さんに「会社を大きくするので、音楽のできる
正社員が欲しい」なんて声をかけられて。まだファミコンを手がける前の時代ですねえ。でも、当時は今と
違って、曲に関して随分うるさかったですね。彼も元々ミュージシャン志望で、自分でギターも弾いてたし。
色んな方々と仕事をするようになりましたけど、今もって彼との仕事は一番の緊張感がありますね。いい加減に
やってるとバレちゃいますから(笑)
 そんなに頻繁にやり取りするわけじゃないですけど、たまに仕事のメール中に「最近こんなCD買ったよ」
みたいなことは。お互いジャズが好きなので情報交換をね。そういう波長が合ってるせいか、彼がゲームを作る
にあたって、どういう音楽を求めているかは大体想像が付きます。

 僕が言っちゃっていいのかわからないですけど、ロストオデッセイは賛沢ですよお!5、60人編成のオーケ
ストラとか使わせてもらったり。3分の1くらいは生オケでやってるんじゃないかな?「ブルードラゴン」もそうです
けど、全く内蔵音源を使わないっていうのは、実は初めての経験でした。面白かったですよ。生音ですから、
音が鳴るモノだったら何でも入れられますしね。ラスボスの曲なんて、ギターはギャンギャン鳴るわ合唱は
入るわ、和太鼓が鳴り響くわで、もうね(笑)。色んな曲が入ってないと、飽きちゃわないですか? 一作丸々を
オーケストラで作ることはできるけど、何十時間もプレイするRPGだと、耳ざわりが同じで飽きちゃうだろうし、
曲の構成にもすごい完成度が要求される。僕のアプローチは少し違って、喜んで貰ってなんぼみたいなのが
自分の中にあるんですね。だから「自分の音楽性はこうだ」って押し付けるんじゃなく、スタイルを変えることも
嫌じゃない。根底にあるものは変わりませんから。例えて言うなら、シーンに合わせて綺麗な服を着たり、
ヨロイに着替えたりとか、コスプレみたいなもんですよ(笑)

 「ブルードラゴン」のときは、坂口さんから「バトルってロックが似合うよね」ってメールがきたのがきっかけ。
だったら'70年代初頭のハードロック路線だろうとイメージしながら作曲したら、ひょんな縁でイアン・ギラン
(ディープ・パープルのボーカル)が使えますよって。決まった瞬間に、LPレコードにサインをもらおうと思って
買いに走ったんですけど、レコーディングはカナダだったので会えませんでした(笑)
 今回の「ロストオデッセイ」でも同じパターンで、作曲を終えて誰に歌ってもらおうかなと考えていたら
「シーナ・イーストンが使えますよ」って。全米ナンバーワン歌手かよ!って(笑)。でもね、歌は坂口さんも僕も
入れたかったんですよ。人の声って、やっぱり心に何か感じさせますよね。もちろん、バイオリンなどの楽器に
も表情はあるんですけど、歌声はまた違っててね。そういえば、元々「ロストオデッセイ」には3曲のボーカル曲
を用意したんですけど、実はそのうちの1曲が、ゲーム中に入らなかったんですよ。でも、1月に発売される
サウンドトラックにはボーナストラックとして入っているので、ぜひ聴いてください。

 冒頭でモノレールに乗ったあと、オープニングの映像が流れるじゃないですか。完成するまでノーチェック
だったんですけど、あれを見た瞬間に「これは傑作だな」って、一人で唸ってました。やっぱりメインテーマって
"核"になるものなんで、それができていると後が楽。いつまでもメインテーマができてないと不安になっちゃう。
比較的早い時期に僕は作っちゃいますね。

 今回、苦労ってわけじゃないですけど、ボス曲バトル曲を最終的に1曲、ボツにしました。どう聴いても、
その1曲だけ完成度が低くて、ゲームの重厚な世界観に合わなかった。しょっちゅうボツはないですけど、
今回はありましたね。4小節くらいの短いフレーズをストックしておいて、そのままほったらかしにしちゃうことは
あるけど、完成した曲をボツにしたのは珍しい。それだけ神経が行き届いていたんでしょうね。

 久々にね、お気に入りがいっぱいあって。たとえば自分が手がけた曲だけでコンサートをやるってことに
なったら、何曲か「ロストオデッセイ」の中から選べそうな感じ。自分としても珍しいですよ、一作の中に演奏
したくなるような曲がたくさんあるのって。それこそ「FF7」や「8」以来かもしれない。FFのコンサートをやると、
そこから選んだ曲ばっかりになっちゃうんですよね(笑) でも今回は、1つのタイトルの中から聞いてほしい曲が
たくさんあって、いいんですよねえ。

 ゲームの発売後は評判が気になってWebとかを覗き見るじゃないですか。僕の知っている限り、いい評価を
目にすることが多いので、それは率直に嬉しいですね。坂口さんと僕とが、こういったシリアスなRPGを作った
のは久々なんですけど、こういうゲームがまだまだ喜んでもらえるんだったら、ぜひまた作ってみたいなって
思いますね。期待していてください。

                                                      (2008)